Trueque Technology

Decision Making

※近日更新予定

物々交換経済の神話

標準的な貨幣論の過ち

“古代には、お金はなかった。人々は物々交換でモノのやりとりをしていた。・・・やがて、あるモノを選んで「交換の手段」にするという考えが生まれた。”

“交換の手段として選ばれたものは、・・・それ自体が価値のあるものとして取引されるだけでなく、他のものを買ったり、将来のために富を蓄えたりすることに使えるようになった。”

“標準的な貨幣論として、一般人、専門家を問わず、いまも大きな影響力を持っている”

“問題は、経済学の訓練を何年も受けてきた人たちがこの説をうのみにしていることなのだ”


物々交換経済の証拠はない

“かくのごとく物語の浸透はすさまじい。この物語はわれらが経済ンステムの創設神話となってしまったのである。”

“マダガスカルのような場所においてさえあまりに深く常識として根づいてしまっているために、地球上のほとんどの人びとは貨幣の発生についてそれ以外の可能性を想像しえないほどだ。”

“しかし、悩ましいのはそのようなことが実際に起こったという証拠がないことであり、むしろそんなことが起こっていないことの方を膨大な量の証拠は示していることである。”


「物々交換の時代」というファンタジーと
貨幣の成り立ち過ち

“情報科学の観点からも、現在のように進んだ情報インフラをもたない過去に、需要と供給とのマッチングが必要になる物々交換によって広く経済的なニーズを満たすことが可能だったとは、私には到底思えなかった。”

“仮に今後、金融貨幣経済が衰退し、まさに貨幣の存在に慣れ親しんだ時代を経て貨幣が不在になるなら、何が起こると言えるだろうか。”

“つまり、物々交換の時代とは、むしろ未来の姿なのではないか、ということである。”

ミッシング・トランザクション

ここで、過去30年あまりに行われてきた取引慣行を、イメージ図で整理してみます。簡略化のために、1対1の相対取引を前提にすると、一般の取引で用いられる財は、お「カネ」(金融資産全般)と「モノ」(金融資産以外)に分類されます。

インターネットが普及し始めたばかりの1990年代においては、買い手がお「カネ」で売り手の「モノ」を買う伝統的(Traditional)な取引や電子商取引(EC)がもっとも普及していました。これらの取引で扱われる「モノ」は、通常 Fungible(代替可能)な商品で、一定量の供給が行われる商品です。

これに対して、お「カネ」と「モノ」の取引であっても、取り扱われる「モノ」が Non-Fungible(代替不可能)な商品である場合には、オークション(Auction)に代表されるように、通常一品ものとして買い手のみの競争により価格が決定される点で取引の仕組みが異なります。

また、為替取引に代表されるように、お「カネ」(金融資産)をお「カネ」(金融資産)で売買する取引形態があり、この取引の中核となる技術が「Finantial Technology」(FinTech)と呼ばれるものです。厳密には、電子商取引やオークションを支える技術にも FinTech を謳う技術は数多く存在しますが、ここでは説明の便宜上、お「カネ」とお「カネ」の取引するために利用される FinTech のみを区別して図示することとします。

現在では、オンライン取引の普及に伴い、とりわけ FinTech が中核を占めるお「カネ」とお「カネ」の取引が実体経済を上回る規模で飛躍的な発展を遂げました。これに連動する形で、FinTech を活用するオークションや電子商取引が拡大してきたというのが現状なのではないかと考えております。

それでは、このような FinTech を技術基盤としない取引についてはどうでしょうか。このような取引は、いずれの主体もお「カネ」を取り扱わず、「モノ」と「モノ」の取引で、物々交換取引(Barter/Swap)がもっともイメージしやすいのではないかと思われます。

いずれにしても、少なくとも現時点では、このようなカテゴリーは FinTech の発展過程の裏側で、ごく一部の人々によってのみ営まれてきたのではないでしょうか。それでも、このようなニーズは確実に存在し、とりわけ「モノ」の定義を金融資産(もしくは同等の資産)以外と広く捉えた場合には、お「カネ」で取引することが①法律等で禁じられている、もしくは②望ましくない、といった理由で行われてきました。

このようなカテゴリーの取引は、確実に存在するものの、あまり着目されることのなかった、いわば「ミッシング・トランザクション」であるとも言えなくもないわけです。

弊社では、現代の高度情報社会における情報インフラを活用することを前提に、このような「モノ」と「モノ」の取引のカテゴリーに着目しています。

そして、旧来の1対1の物々交換取引(Barter/Swap)と区別し、さらに各種テクノロジーを採用した技術カテゴリ-を定義するために、新たに「Trueque Technology」という用語を考案しました。

「Trueque」という言葉はスペイン語で、英語の Barter に相当するものです。スペイン語による発音は、片仮名で表記すれば「トゥレケ」に近いものですが、英語的な発音を採用し、「トルーク」または「トゥルーク」と呼んでいます。

欲望の二重の一致」問題

今、一人の経済主体が一つのモノだけを持ち寄って、他者との取引を希望して相手を探索しているケースを考えます。このようなモデルで取り扱われるモノは、経済学では非分割財と呼ばれ、活発な研究が行われています。

非分割財の具体例としては、物理的に分割してしまうと価値がなくなってしまうものや、学生寮や社員寮で借りている部屋などが事例としてイメージしやすいと思われますが、ここではもっと単純に1つのモノを差し出して1つのモノを得る形式の取引であると考えてください。

一般に取引相手を見つけるためには、前提条件としてお互いの存在を認識しなければなりません。そして、仮に相手が見つかったとしても、相手のモノと自分のモノがお互いに取引を希望するものである必要があります。

このような取引相手のマッチングは、「欲望の二重の一致」問題と呼ばれ、このような課題を解決するには、偶然の一致が起きるか、数多くの取引相手を見出して希望のマッチングを図ることが必要となります。

インターネットの普及に伴い、現代では高度な情報インフラが整っているため、取引相手を見つけることは難しくなくなったと言えるかも知れません。とりわけ最近は EC サイトなどで一般に用いられている「通知」や「レコメンデーション(推薦)・エンジン」の機能を利用すれば、自ら希望するモノを持っている相手を見出したり、自ら希望するモノをブロードキャストすることも可能な時代となりました。

ここで、EC サイトなどで行われている、取引相手の一方がお「カネ」を用いる一般的な取引の場合には、どの相手とどの時点で取引を確定させるかは、基本的に早い者勝ちで決定されます。ただし、このようなルールが適用できるのは、EC サイトの運営者が一元的に取引を管理しているからであって、そのような管理者の存在を前提としない経済圏においては、早い者勝ちルールに限定されない、何らかのルールに基づいて取引を確定させる必要があります。

そのようなルールの詳細(分散プロトコルやコンセンサス・アルゴリズムなどと呼ばれる研究分野)は、他に委ねることとさせて頂きますが、Trueque Technology がベースとしているのは、主としてグラフ理論とマッチング・アルゴリズムの研究成果です。

一般的なマッチング理論のモデルでは、自身が持っているモノと比較して、他者のモノの方が好みである場合には、希望の表明を行います。この際、アルゴリズム(ルール)の種類によっては、希望を相手に表明するよりも前の段階で、相手の希望を知ることができた方が有利な立場になる傾向があります。

このような経済主体の意思決定が行われる仕組みや、他者の行動に依存して自らの行動をどのように選択するか、といった研究は、ゲーム理論や行動経済学などの分野に多くの先行研究がありますが、説明の便宜上、ここでは各経済主体が一つまたは複数の希望を、他者に知られることなく集計できるものと仮定します。

その結果、上記の図のような多数の希望が表明されて、複数の希望が競合した形での複雑なネットワークが形成されます。希望が競合する理由は、モデルが非分割財を前提としているために、1つのモノを同時に複数の相手に差し出すことはできないからです。

それでは、このように競合する形で表明された希望を調整は、どのように行われる必要がありますでしょうか。どの希望を確定させるか、という問題は、言い換えると、誰が誰のモノを取得できるようにするか、という問題に置き換えることができますから、これを経済主体間の調整に委ねることは現実的でないと考えられます。

そこで一般に利用されるのが、マッチング・アルゴリズムです。多数の経済主体によって表明された希望を集計した際に、予め決められたルールに合意し、これに基づいて希望が実現されるのであれば、利害調整に伴う衝突は回避しうること考えることができます。

ここで、マッチング・アルゴリズムが探索するのは、1対1の取引相手間で欲望の二重の一致がなされているマッチングだけではなく、3者以上の経済主体によって構成される循環サイクルです。

たとえば、3者によって構成される循環サイクルは、上記のような一方通行の矢印と、経済主体を表すノード(青い●)によって表現することができます。同様に、4者以上の循環サイクルもネットワークが多様化するほどマッチングにより形成される可能性がたかります。

従来の1対1の相対取引を主体とする世の中においては、3者以上によって構成される循環サイクルは一般的ではないと思われます。しかしながら、高度な情報インフラが発達した現代においては、俯瞰した立場で経済主体のネットワークを眺めることによって、このような多次元化されたサイクルを見出すことができ、そこにロングテールを見出すことができると考えられるわけです。