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Fungible という「ものさし」で現代社会を眺めてみる

2021年頃から一般のニュースとしても取り上げられるようになった技術に、NFT(Non-Fungible Token)という Web3 関連の技術があります。Token という難しい言葉はさておき、Non-Fungibleという言葉に着目してみると、Fungible を敢えてわかりやすい言葉に直せば、「同等のものと取り替えられる」という意味です。

たとえば、店舗に出向いて家電製品を購入したものの、自宅で初期不良に気が付いて、同じ製品の別の在庫に交換してもらった場合を考えてみます。この際、交換が成立するのは、その本質が Fungible なものだからです。

この Fungible という性質は、我々が生活する資本主義経済において市場で取引するために重要な性質であることは言うまでもありません。なぜなら、Fungible であるがゆえに多数の供給ができ、たくさんの人がこれを需要(入手)することができるからです。また市場価格が適正化されるためにも、Fungible 性を持つことが前提となります。

それでは、Fungible 性が無制限であった場合には、市場は成立するでしょうか。その場合には、供給が無限であることを意味しますので、誰もが入手可能となればこれを入手するためにお金を支払う価値がない形となり、市場価格が成立しなくなってしまいます。

このような Fungible 性を維持するために、つまり市場で適正な価格で取引されるために、現代社会で行われている問題はないのでしょうか。その分かり例の一つが、規格外商品の廃棄です。

また、様々な手法で格付けを行う高度経済社会の教育にも、同様の問題が含まれているかも知れません。本来、人それぞれ個性をもった個人であるはずの我々が、成績やスキルなどによって同等の Fungible 性をもった集団に分類され、雇用者側の視点で扱いやすい格付けが行われてきたからです。

ただし、弊社は Fungible 性を前提とする市場の仕組みそのものをすべて否定する立場ではありません。むしろ、本質的に Fungible 性を有しない商品をも市場メカニズムを利用して取り扱おうとする、いわゆる市場原理主義こそが最大の問題であると考えます。

市場メカニズムを補完するマッチング・アルゴリズム

それでは、市場メカニズムの仕組みに適合しないモノ、すなわち本質的に Non-Fungible なモノや、規格外として Non-Fungible に分類されてしまったモノを取り扱う仕組みはないのでしょうか。

そのような仕組みの一つが、オークションであり、また弊社が事業化を推進しているマッチングであり、これらを総称してマーケット・デザイン(メカニズム・デザイン)といった名称が与えられています。

ただし、一般にマッチングと言えば、1対1のマッチングをイメージしがちですが、マッチングで取り扱う取引の本質は「循環型サークル」です。1対1のマッチングで成立する循環型サークルは、あくまでも多様なサークル形態の一つにすぎません。

たとえば、物々交換経済をイメージしてみてください。何かと交換したいモノを持った人が5人集まって、直接1対1の交渉を行う程度では、お互い相手の欲しいものがマッチングせず、取引が成立しない可能性が高いと思われます。これは経済学でいう「欲望の二重の一致」問題です。

ところが、たった5人でも、その中の3人がほしいものを伝えあったとき、3人が持参したモノを、サークル形式で一方向に希望がマッチングするかも知れません。これが循環型サークルで図形的には、三角形の辺上をぐるっと一周するように矢印を描くことができます。

さらに登場人物が10人、20人と増えて、たくさんの希望としての矢印が表明さえた場合には、そのような矢印を辿って何らかの希望がサークルとしてマッチングする可能性が高まります。

こうなると、むしろどの矢印を希望として成立させるか、という決め方を考えなければならなくなり、それを予め定められた何らかの基準にしたがって処理する必要性がでてきます。このとき用いられるのが、マッチング・アルゴリズムという手法であり、経済学では半世紀以上の長い歴史をもつ研究分野になります。

そして、このようなアルゴリズムを社会実装するためには、全体を俯瞰する立場で人々の調整を図るための情報システムが必要になり、かつそのようなシステムは特定の事業者や管理者によって恣意的に操作されないことが不可欠です。このような情報システムを実現する際に、最も有力な候補となるアーキテクチャが Web3 技術の核となる DAO(Decentralized Autonomous Organization)です。

なお、この分野で扱われる「モノ」とは、お「カネ」そのものや、その同等物ではないという意味で用いられており、たとえば人事異動といった分野でマッチング・アルゴリズムを適用すれば、実際の動くのは「モノ」としての人になります。

Non-Fungible なモノをマッチングさせてよりよい世界に

NFT を構成するもう一つの言葉である Token(トークン)とは、分かり易く言い換えると、あるモノが Non-Fungible であることを保証し、かつオンライン上で取引できるようにデジタル化された、いわば電子タグのようなものです。

これまで NFT といえば、取引対象であるモノそのものがオンライン上で取引可能なデジタル・アートばかり着目されてきましたが、実は私たちはすでに Non-Fungible なものを証明する手続に慣れています。

その一つは、オンライン・ショッピングで必ず行われる本人確認(認証)です。ごく単純な例として、最近では ID として用いられる電子メールと、自分だけが知っているパスワードで認証に成功したとき、その事象をトークン化することによって、オンライン上を流通させることができるようになりました。技術的な用語を用いれば、シングル・サインオンや統合認証といった仕組みが背後でこのようなトークンを利用しています。

もっと分かり易い例としては、本人確認手順として、運転免許証や学生証などを利用する事例があげられます。いずれも物理的なトークンに相当しますが、この場合も、運転免許試験に合格したとか、特定の学校に入学したといった事象を、わかりやすくしたものであることがその本質であり、他の Fungible な人でないことを証明する手段として利用されています。

現在、さまざまな技術を用いて、Non-Fungible なモノをオンライン上でトークン化し、これを取引することによって流通させる試みが行われています。つまり、現実の世界に存在し、直接オンライン上の取引対象とはなりえないモノであっても、代わりに改竄困難な証明書やタグが電子的に発行できれば、これをトークンとしてオンライン上で取り扱うことが可能になってきているのです。

弊社の取り組みとして独自性を有しているのは、このような Non-Fungile なモノをオンライン上で取り扱う際に、①オークションではなくマッチングによって取引を成立させること、また②マッチングに用いられるアルゴリズムに民主的公平性の規準(マジョリティ保証®)を取り込んで、一部の人の高順位の希望よりも、一人でも多くの人の希望を実現させることを優先していることです。

Non-Fungible なモノのマッチング市場の可能性は、本質的に Non-Funible のモノそのものと、Fungible なモノの市場の裾野において無限に広がっています。